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「古楽情報誌 アントレ」に掲載された記事です。 台湾公演の様子を紹介しています。

台湾公演記

 アントレ古楽シリーズより、我々”東京リコーダーオーケストラ(TRO)”のCD『セビー リャ』がリ リース されて3年半になる。その間、その珍しさから多くの反響があり、その手応えを肌で感じている。世間ではもうすでに「リコーダーオーケストラ」という演奏形 態は一般的になってはきているのであるが、CDの世界の中ではやはり珍しい存在であるようだ。
 さて、このCDのライナーノートをお願いした大竹尚之氏が、毎年のように台湾にて演奏会、ワークショップを開いており、その中で紹介していただいたこと で、現地の多くの人々にこのCDを聴いていただくことができた。ヨーロッパからの演奏家も頻繁に訪れている中、日本からのこの珍しい響きのするグループに 興味をもっていただけたことをうれしく思った。そして間に入っていただいた大竹氏のお骨折りもあり、台北交響楽協会の召聘により台北での演奏会、ワーク ショップがこの4月に実現することとなった。

  台湾の音楽事情の基礎知識はほとんどなかったが、ひとつ引っかかっていたことがある。20数年前に聴いた台湾先住民族の歌った録音である。一部の民族が歌 い継いできたものであるが、西洋の三和音からなる和声進行に大変よく似た響きをもつ歌で、野外で録音されたものであったはずであるが、ア・カペラのコー ラスを聴いているようであった。それほど民族音楽に精通してはいなかったが、他のアジア諸国の音楽スタイルの違いは明らかで、それを熱く語っていた民族音 楽学者の講義がやけに印象に残っていた。現在、先住民の人口比はほんの数パーセントであり、音楽もほとんどが大陸からの管弦打楽器を使った伝統音楽が主流 になっている。この先住民族のもつ感性が、この国の音楽に少なからず影響を与えているのではないかという密かな期待と、TROの決して派手ではないひとつ ひとつの音を積み重ねてゆく響きが、台湾の人々の心にどのように響くのかという少々の不安を抱きながらの旅立ちとなった。
 時は折しもSARSの話題でもちきりの4月初旬。外務省より香港、 広東省等に渡航延期勧告が出される等、いやが上にも緊張感の高まる中、 成田空港を発ったのが4月5日。この日と翌日6日の2日間、 国家音楽庁(=ナショナル・コンサートホール、7日に我々が演奏する場所)にて、ズービン・メータ指揮、 ウィーン・フィルの公演が行われているということで、メンバー数人がホールの下見に行くことになった。とはいえ、公演当日にチケットが手に入るはずがな い。驚いたことにこの公園の模様はホールの外に設置された大スクリーンに映し出されており、自由に聴くことができるようになっていた。それにしても、 ウィーンフィルの公演が行われた1500人収容のホールで、翌日に自分たちが演奏するという栄誉はともかくとして、その音響を実際にステージに立って確認 できなかったことが不安であった。

  4月6日は、台北市内の小学校にてリコーダー合奏のワークショップがメインの日程であったが、その前に、翌日の我々の公演のための記者会見が開かれた。新 聞社各社の他にテレビ局も来ているということで急遽、演奏も披露することになり、それなりによく響く会場に助けられ2曲ほど演奏した。30分ほどの慌ただ しい会見となったが、大小のリコーダーに興味が集まり、担当奏者は何度もポーズをとっていた。

 午後、ワークショップの会場に入って驚いたことは、小学校の中のホールと聞いていたが、 一般コンサートが充分に可能なだけのキャパシティーと音響を兼ね備えているということであった。 リコーダー合奏にとっては、特に低音部の響きが会場によって大きく左右され、 場合によっては思うように鳴らずに寂しい思いをすることが多かっただけに、 この会場設定は非常にありがたかった。

内容は、3時間を3つの部分に分け進められた。
*リコーダーオーケストラの歴史と現状、レパートリー(大竹氏担当)。
*リコーダーオーケストラのアレンジ、レジストレーションについて(筆者担当)。
*五重奏曲≪パストレッラ≫ (S,A,A,T,B)を使ってのアレンジ(大竹氏当)。

  レジストレーションを実際に体験する場面では、現地の30名ほどの小中学生による合奏団にお手伝いをお願いすることができた。普段、4フィートの合奏 (S,A,T,B)にオクターヴ下の8フィート(T,B,GB,CB)を重ねて演奏することが多いが、今回はTROのメンバーも含め40名以上の奏者と多 種の楽器、そしてサブ・コントラ(テナーの2オクターヴ下)を使用したこともあり、16フィート(GB,CB,CB,SubCB)そして2フィート (KSn、Sn,S,A)をも重ねていくという大変贅沢な体験をすることができました。また、大竹氏による≪パストレッラ≫の楽曲解説から仕上げまでのデ モンストレーションは、SAATBの楽譜からオーケストラ作品に変貌していく過程が解り、参加者も興味深く見守っていた。細かく進めていけば3日間はかか りそうな内容であったため未消化な部分はあったが、会場に集まった200人ほどの参加者(主に学校の先生方)は、熱心にメモをとりながら受講し、まだこれ からという段階であろうリコーダーオーケストラの可能性を充分に感じ取っている様子であった。

 翌4月7日、いよいよ公演当日となった。午後より主催者台北交響楽協会内のリハーサル室にて軽く音出しをし、17時に演奏会場に入った。この時点で初め てステージに立ち音響の確認ができた。3階席まである1500名収容のホールで15本のリコーダーがどのように響くか、響かせられるかが今回のツアーの最 大の課題であった。恐る恐る祈るような気持ちで音出しをし、その響きを客席に回って聴いてみた。その瞬間、東京でのリハーサルがら常に抱き続けてきた不安 感は一気に吹き飛んでしまった。後部座席までも降り注ぐような豊かな響きと、そして何よりも今回ライヴで初めて使用するC管のサブ・コントラバス・リコー ダーがよく鳴ってくれたことにより、低音の自然倍音上に音を積み重ねていくという理想的な響きを作ることができたように思う。このサウンドに台北の聴衆が どのような反応を示すかがとても楽しみになってきた。

 プログラムは、CD『セビーリャ』より5曲、この4月に新しくアントレ古楽シリーズとしてリリースされたCD『トッカータとフーガニ短調』より4曲、そ してTROのプログラムには初めてのせることとなる映画『ニュー・シネマ・パラダイス』のアレンジから数曲というもので、大曲が並ぶ東京での定期公演とほ ぼ同じ内容となった。

 19時30分、会場を埋め尽くした聴衆の拍手とともにコンサートの幕が開いた。曲が進むにつれて我々の音が会場に浸透し聴衆の中に共鳴していく実感を得 ることができた。ひとつひとつの音を大切に伝えようとする奏者と、それを受け止めようとする聴衆の息使いが指揮をしながら背中で感じられた。そしてアン コールを2曲演奏後も、「ブラボー!」の掛け声と鳴り止まない拍手の中で、何度もカーテンコールを繰り返しながらコンサートは終了した。

 このツアーで、この国の人々の響きに対する豊が感性を確信した。それが先住民から受け継がれたものなのかどうかはわからないが、その空間を共有し、その 中で演奏できたことに幸せを感じた。正面から聴衆の息使いを受け止めた各奏者は、私以上にそれを感じていたに違いない。

1.ファンタジア; F.ベインズ
2.自動オルガンのためのアダージョとアレグロ ヘ短調; W.A.モーツァルト
3.笛時計のためのメヌエット; L.V.ベートーヴェン
4.フーガ; C.サン=サーンス
5.トッカータとフーガ ニ短調; J.S.バッハ
6.ゼクステット; J.F.ドッペルバウアー
7.ロシメドレーによる前奏曲; R.ヴォーン・ウィリアムズ
8.「セントポール組曲」より、ダーガソン; G.ホルスト
9.映画「ニュー・シネマ・パラダイス」より; E.モリコーネ
10.セビーリャ; I.アルベニス

台湾公演

演奏会後の東京リコーダーオーケストラと大竹尚之氏

 台湾公演

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